先生の「忙しさ」を救うのは誰か?「生徒自らの情報発信」が重要な理由

2014/6/25、新聞・Webメディア各紙が一斉にOECD加盟34の国・地域における中学校レベルの教員の勤務環境を調べた”国際教員指導環境調査(TALIS)”の結果が公表されました。

日本の教員、勤務時間が最長 OECDが中学調査 :日本経済新聞

この記事や調査そのものの信ぴょう性がどの程度なのかは別として、示されている数字がかなりセンセーショナルであったためか、「忙しすぎる日本の教員」といった主旨の記事や社説が多数発出されました。この報道を受け「部活動」に割いている時間の長さ、休日出勤の多さと言った部分にフォーカスが当たり、教員を「ブラック職種」などと揶揄する声も各所で随分と見掛たように感じます。

「忙しすぎる日本の教員」で盛り上がる世論

こうした記事の論点を纏めると、部活や地域活動、事務処理、保護者対応などに追われる時間が肥大化し、一方で授業の準備については他国と比較しても少ないもしくは同等レベル。これについて「先生として本来力を入れるべき”授業”がおざなりになっているのでは」という懸念が多いように感じます。また、部活動や休日出勤に対する手当がほとんどない事、残業代という概念がない(厳密には遥か昔の残業実績を元に加算される”調整給”という雀の涙程度の手当がある)といった待遇面での指摘も目立ちました。

私の母親はまさに中学校の教員(公立)で、こうした話はよく聞かされていたので「何を今更」と思う所があったり、「教員の負担を減らすべき」という新聞各社が別の場面では「学校は◯◯すべき」と言っていたりして「なんだかなぁ」と複雑な想いだったのですが…。ただ、これらの記事が大きな話題を呼んだのは、先生の労働実態が世の中に思ったほど知られていないことの証左かもしれません。

社説で述べられている処方箋は現実的か?

さて、こうした事態に対して幾つかの新聞社説やオピニオン系記事でその「処方箋」を論じるケースが出てきました。主に登場する論点は以下のようなものです。

■ 地域の力を使って行こう系

・部活動の顧問に地域や外部の人を積極的に登用すべき、もしくは部活を地域で実施すべき
・土曜授業なども外部の講師を招聘して実施すべき

■労働実態に合わせた手当を行うべき系

・残業代水準は昭和41年頃の平均残業時間「8時間」が基準、今の実態に合わせた調整給を支払うべき
・そもそも現場は人数が足りていないので教員を加配すべき

■学校の負担を軽くしよう系

・事務作業や校務にITを導入して効率化しよう云々
・成績評価や教案作成等を外部に委託しよう云々

等々。

どれも一見「確かに…」と思うのですが、スミマセン、私から見るとどれも「現実的では無い」です。同様の議論はこれまでも何度も出て来ていますが、個別改善事例はあっても全体最適事例に繋がったケースを私は知りません。もちろん、これらは、長い目で見れば「実現するかもしれない」ですし、そういう所へのリソースの投入は必要です。ですが、処方箋にするならば、ある程度短期間で実現でき、かつ現場が出来る事でなければ適切ではない。3年後、4年後には改善…なんて言っている前に現場が疲弊してしまいます。

そもそも学校の先生はなぜ「忙しくなった」のか?

そもそも、学校の先生が「忙しくなった」理由は何なのでしょうか。それは、おそらく「学校に求められる役割」がもの凄い勢いで増えてきているためです。思いつく範囲で列挙していくと、

  • ITを取り扱うには必須だよね →「情報収集力」「情報活用力」「情報リテラシー」
  • グローバル時代を担うために必要だよね →「英語力」
  • あらゆる業務における基本ですよね →「コミュニケーション力」「PR力」
  • これからの時代には必要だよね →「プログラミング力」
  • 学校は最低限これを教えないとね →「礼儀」「躾」「言葉遣い」
  • なにはともあれ →「健康第一」
  • 災害や有事の際に頼みの綱は学校ですよね →「危機管理能力」

平たく言えば、これまでの学校で育まれて来た力はそのままに、文部科学省の学習指導要領のいう「生きる力」、すなわちこれからの社会で生きるために必要な力を「学校が教えるのだ!!」と迫るプレッシャーが学校に無用な負担を強いていることを感じます。これらは全て「+α」の議論で、既存の負担を減らす議論がほとんどされないまま「これも」「あれも」と学校に押し付けられ、上からの圧力に逆らえず先生が頑張って吸収してきた結果が、今の「労働時間」なのではないかなと。

この世の中からの圧力というのは時に保護者だったり、自社の商材を上手く入れたい企業だったり、自身の考える方法論を現場で実践したい学者だったり、いろんなパターンがあると思います。が、こうした◯◯力を学校で全部負担しようとしたら、学校や先生は潰れてしまいます。

加配や外部委託は「付け焼き刃」だ

ただ、現場の負担を減らす為に「先生を加配」したり「業務をアウトソース」するという発想はいずれも「付け焼き刃」にしかならないでしょう。時代は常に変わり、新しい「◯◯力」が学校に求められることになるからです。その時「この間、人増やしただろ」「アレを外部委託したから大丈夫だろ」と新たな負担を断れずに受けて来たら、結局同じ状況が再現するのです。(事実、組織変更や”効率化”と称する人の再配置が頻繁に起きる企業現場ではこれが日常的に起きているからです。)

ちなみに、外部委託は成功するとは限りません。学校名は伏せますが、部活動のアウトソースを行っていたある学校では、外部顧問が不祥事を起こし、保護者からのクレームが相次いだそうです。結局教員が実施する形に戻すことになったという事例もありますので、外部委託は相応のリスクも伴います。(実際にそう考えて踏み切れない先生や学校も多いものと思われます。)

「地域への情報発信」こそが処方箋だ

では、どうすれば良いのか?私が考える最も効果的な処方箋は「地域への情報発信」、つまり、地域への意識付けと啓蒙活動です。言い換えれば、地域が学校を「助けたくなる」ような状況を意識的に作っていくことが、この局面を乗り切る為に重要だと考えています。

一般的に、日本人は優秀で勤勉だと言われています。それ故、「自分(達)で問題を処理する事」「他の人に迷惑をかけない事」を重要視する傾向が強いように感じます。言い換えれば、「周囲に助けを求めるのが下手」であるとも言えます。実は、この意識を少しだけでも変えることが、様々な課題を解決する糸口になるのではと思っています。

だからといって、学校が地域に対して「ボクらもうダメです、忙しすぎて回りません」と白旗を上げても周囲は助けてくれるどころか、「むしろこの学校は危ない」と逃げてしまう可能性があると思います。とはいえ、学校が厳しいのはそれはそれで事実。では、どう「情報発信」をすれば良いのでしょうか。

これは個人的な考えですので反論はあるかもしれませんが、「人は伸びる可能性が見えているが、様々な課題で進めない状況に対して、手を差し伸べる可能性が高い」という部分に着目することが重要だと、私は思っています。学校にあっての「伸びる可能性」は言うまでもなく、生徒の皆さんです。生徒の皆さんにさらなる飛躍の機会を創りたいという考えは、多くの先生、保護者、地域にとっての願いだと思います。

生徒自身が外部に発信することが重要だ

それを行うために必要な事は「生徒が自身の声を地域に対して発信する事」だと、私は本気で思っています。それは学校のHPやブログを通してでも良いですし、学校のFacebookなどの公式アカウントでも良いです。そして、これらの情報発信をするにあたり、あまり「先生」や「学校」の体裁を気にしすぎない寛容さを持つ事が重要だと考えています。つまり、生徒自身が抱えている「課題」を生徒自身が言葉にしてくれれば、それに対して支援を買って出てくれる大人達はたくさんいるのです。

実は、保護者や地域が学校に対して一番求めている事は「学校の中の状況をもっと知りたい」、突き詰めて言えば、「ウチの子がどうしているのかもっと知りたい」です。なので、生徒自身が外部に向けて情報を発信していくと、そこに見える課題については、地域や保護者の力で少しずつ解決して行くようにするのです。こうして行く事で、自然と学校と地域の結びつきが強まり、信頼関係があれば保護者に「相談」ができる状況もできるでしょう。

もちろん、これをやる事で先生の負担が増えたら元も子もないので、生徒にきちんと「任せる」事が肝要です。これが「地域や保護者を”動かす”」原動力になると思います。しかも、こうした情報発信はさしてお金がかかりません。
(実は学校HPをより良く、地域の求める情報発信を増やそうと活動されている方の一人に、国際大学GLOCOMの豊福先生がいらっしゃいます。当方はその活動の主旨に強く賛同する人間の一人です)

リスク対策を考慮した活用法、Facebookグループやednity

もちろん、いきなり広いインターネットの世界に向けて情報発信を行う事に対してリスクも大いにあることと思います。ここに踏み切る勇気を持てない人も多いでしょう。Twitterでのバイトテロのような事態が起きたら、学校としても非常に厳しい対応を迫られる事になります。

そこで、SNSを上手く活用する方法を提案します。例えば、Facebookを使うと、グループ機能やFacebookページ機能で、「ごく限られた範囲」に対して「投稿者の個人を特定しにくい方法で」情報発信を行うことも可能です。実際に、Facebookを使った地域への情報発信をカリキュラムに取り込んでいる学校も存在します。同様の事は、ednityでもできるものと私は期待しています。つまり「◯◯学校△年□組の生徒、先生と保護者」というごく限られた範囲のSNSの中で、まず生徒に任せて情報発信をしてもらう。そんな事が出来たら良いなと思っています。

願わくは、これが全国各地で試行され、そこで断片的でも学級や先生の課題に対して、可能な範囲で保護者達が支援をする、といった成功事例が生まれてくれれば、と思っています。こうした成功事例が新聞等で取り上げられれば、「非常に良い事例だが、全国に広げるには地域や他の先生の理解が必要だ」という状況、つまり「伸びる可能性が見えているものの、様々な課題で進めない状況」が認知され、それに対して手を差し伸べる人たちが全国から現れると考えるからです。

もちろん、これを進める為には学校の先生が一歩を踏み出すことが必要です。始める最初の段階では、仕事が増えるかもしれません。自分のクラスだけで始めると色々と周囲に言われるかもしれません。ですが、この方法で地域や保護者との結束に成功することができれば、それこそ「信頼関係」をベースに様々な課題が解決するかもしれません。もちろん、それが起きるかどうかは、やってみなければ分かりませんが、なにもアクションを起こさなければ、現場にはまた負担軽減の議論なく、仕事が次々に投下されていくかもしれません。

先生の忙しさを救うのは、実は現場にいる一人の先生の勇気かもしれないのです。

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